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赤裸々に報告できないことだけど。そこはもう大人の女のデリケートなことだから、いまはそっとしておいて。言葉に出来なくても、小鳥は目で伝えた。
すると、英児父がヤンキー座りぽいその姿のまま、ふっとひと息。だけどまたグッと小鳥を下から睨んできた。
「男に言っておけ。娘の男だって認める時は、娘が幸せだって『親父の俺が』確信した時だってな」
「と、父ちゃん」
「お前が幸せだって言っても、まだ認めねえ。確かに娘は幸せだ。俺がそう思えた時がその時だ」
英児父らしくて。小鳥は泣きそうになった。
「……わかった。私が認めた男の人が……現れたら……、その時、その人にそう言っておくね」
いまその人がいるとは、小鳥はまだ白状しなかった。
でもそれが翔であることは。おそらく、こんな会話をしているけれど、もう父も判っているのだろう。
「行ってこい。お前がどこまでも走れるようにしておいたからよ」
先日、整備したばかりのMR2を今日もまた整備していたのは何故なのか。小鳥も察した。それも父の儀式なのだろう。
これから自分一人で飛んでいく我が子。そんな子離れをするための言い聞かせをしながら、どこも悪くない娘の愛車を手入れしてくれていのだろう……。
小鳥は再度、運転席のドアを閉め、ハンドルを握る。
「お父さん、行ってきます」
「おう。きばって行ってこいや」
バイトも、恋も、そして小鳥のこれからのなにもかも。父はここから小鳥を飛ばしてくれる。
MR2のアクセルを踏み込み、エンジンを高らかに響かせると、父も満足そうに見送ってくれる。
俺の小鳥。
どこまでも飛んでいけるエンゼルにしておいたからよ。
もうどこでも飛んでいきな。
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