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◆ 車屋さんバレンタイン
お椿さんが過ぎると、瀬戸内は少しずつ春の気配。
春めくなか、彼女と新婚生活を堪能中。
そして、初めてのあのイベントの日がやってきた!
けど――。
おかしい。今年は絶対にもらえると思っていたのに、もらえなかった。
いい歳して、もらえなかったことで拗ねたり落ち込んだりしてはみっともないと思って、英児はここ数日、表面上は明るくしている。
なのに、武智に気がつかれた。
「タキさん。琴子さんからチョコレートもらえなかったんだ」
社長デスクでうだうだと事務処理をしていたら、突然、眼鏡の後輩が投げつけてきた。
「はあ? なんのことだよ」
「バレンタインのことだってば」
触って欲しくないところ、触ってきやがったな。長年の付き合いから、どうもこの観察力抜群の後輩だけは誤魔化せない。
英児はとうとう、折れてしまう。いや、もしかすると後輩の彼に気がついて欲しかったのかもしれないと思いながら……。
「気遣い細やかで、いかにも女の子っていう琴子がなにもしないっていう驚きってやつ?」
「ほんとにもらえなかったんだ。なんにも?」
なんにも――と、英児は首を振る。やっと眼鏡の後輩が、レンズの奥で驚きの眼になる。
「それが本当なら、俺も意外だな。だってバレンタインて、女の子が素敵なものを探して買うというのも含まれているよね。化粧品だってクリスマス限定のコフレとか、琴子さんいっぱい買いそろえていたもんな。なのにバレンタインはしないだなんて」
「別によう、絶対にもらいたかったでわけでもねえんだけどさあ」
「女の子らしい琴子さんなら、このイベントは絶対に外さないて、ちょっと期待しちゃったんだ」
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