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英児は溜め息……。いつものことながら、年度年始の忙殺は大変なものらしく、わかってはいるけれど見ていられない。
「こりゃ、チョコレートを見繕うどころではなくて当然だったかもな」
腑に落ちた。そして思い出している。桜が咲く四月初め。今夜と同じようにきちんとした雰囲気が漂っているのに、ぼさっとした油っぽい髪の毛でやつれ気味だった琴子と初めて会った時のこと。
あれもいまから始まっている繁忙期の終わりぐらいだったのだろう。あの時、あの姿の、疲れていた琴子がいたから、煙草の自販機なんて似合わない場所で出会えた。
もとより憧れのOLさんだったが、それよりも匂いにノックアウトさせられていたことも思い出す。
そっか。あの匂いがこれからしばらくかげるのかもしれない? 妙な男の期待が膨らんだが、英児は首を振りながら寝室に戻った。
ベッドに戻って横になり、それなら琴子が風呂から出てきたら、寄り添うだけでもいいから肌を触れ合って眠ろうと英児は待つことにした。
ベッドルームの小型テレビをつけて、暇つぶしにお笑いの深夜番組を見流す。時々笑って、奥さんを待つ。
彼女は女の子らしく長風呂。まあ、少しぐらいは待っていなくちゃな。……と思っている内に、ものすごい時間が経っていることに気がつく。
まさか! 嫌な予感がして英児はすぐにベッドを降りて、バスルームへと向かった。
「おい、琴子」
ドア前で声をかけたが、返事がない。これはもう間違いない! 英児は迷わずドアを開けた。
やっぱり! 英児は湯気いっぱいのバスルームに入って、バスタブへ。
「琴子!」
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