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そっとバスタブから一歩踏み出してしまった濡れた片足を外へと出した。
いい匂いがする彼女の濡れた黒髪をそっと撫でて、今度は英児からそっと彼女の耳元へとキスをする。
「もう眠るなよ」
「うん。ごめんなさい、英児さん」
また素肌でぎゅっと抱きつかれる。見慣れたはずの彼女の大きな胸の谷間が、ほんとうにもう今夜はどうにもこうにも誘惑してきて我慢できないのに、我慢しなくちゃいけない。
結婚したはずなのに。なんだろう、この生殺し状態!
うー、このヤロウ! 大好きな彼女の裸を自分からつっぱねて、英児はベッドルームになんとか戻った。
―◆・◆・◆・◆・◆―
チョコレートなんてもうどうでもいいし、ただ、ただ、結婚して妻になったばかりの彼女をそばにゆっくりできればそれだけでいいのに。それがままならない時期。ただそれだけ。
溜め息をつきながらベッドルームに戻った英児は、独りブランケットにくるまった。
さすがに夜も深くなってきて、眠気が襲ってきた。遠くから彼女がドライヤーをかけている音が聞こえてきて、安心する。ちゃんと目を覚まして風呂から出たんだなあと。
安心するとうとうとしてしまった。ああ、今夜も俺は先に眠って、琴子の匂いを抱きしめられるのはまた明日の朝、慌ただしい一時だけか――と思いながら。
英児さん。琴子の声をかすかに感じて、英児はようやっと眠りそうだった眼を力無く開ける。
眠っている英児を琴子が覗き込んでいるところ。
「おう、お疲れ」
英児がくるまっていたブランケットの中へと、彼女が潜り込んできた。
英児のまわりにふわっとした香りが広がって、そして、心地よい肌の体温がそっと寄り添ってくる。
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