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「英児さん。起こしてごめんね、眠っていたのに」
寝そべっていた英児の背に、琴子がそっと寄り添って抱きついてきた。
「いや、俺は、琴子とこうして話して眠りたかったから、今夜は眠る前に話せてよかった」
「寝ていていいよって、いつもお願いしているのに。でも、いつも待っていてくれて、英児さんの声を聞けて、私もほっとしているよ。ほんとうよ」
背中から聞こえてくる甘い声。疲れていてかすれているのに、でも優しくて甘い声。そして抱きついてくるやわらかいさとあたたかさ。
本当に、俺はもう独りではないんだなあと実感する幸せな瞬間だった。
「いつもこの時期はほんとうにくたくたになってしまうんだけれど。今年は英児さんと眠れるだけでしあわせ」
俺とおなじことを感じてくれると知ると、また彼女への愛しさは倍増してしまう。ついに英児は寝返って、背中に寄り添っていた琴子と向きあった。
一緒にベッドに寝そべって寄り添って、そうしていま、見つめ合っている。英児は琴子の黒髪をそっと指にすかして撫でる。琴子も気持ちよさそうにそっと目を閉じてくれる。
「俺もよ、おまえの肌がそばにないと眠れなくなっちまったよ。寂しいんだよ。夜遅くなっても、隣があったかくないと」
そして英児は琴子の首筋にそっとキスをする。
「おまえのこの匂いも。そばにないと落ち着かねえ」
「英児さん。私も……。龍星轟のこの家がもう私には心地よくて。だから帰ってきたらほっとするの。どんなにくたくたでも。お風呂も英児さんが温めておいてくれているから、すごく気持ちよかったの」
そうして今度は、琴子から英児のくちびるへとキスをくれる。
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