◆ 車屋さんバレンタイン

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***  予定より少し早く。英児は顧客廻りと営業と南雲氏との話し合いを終えて、港の城下町へと戻ってくる。  龍星轟に帰ってきてガレージにゼットを駐車させる。ガレージにスカイラインはまだいない。土曜だから早めに帰れそうと言っていたが、琴子の帰宅はまだのようだった。  ガレージを出て、ピットを通り過ぎて事務所へ――。と、目指していたのだが、英児はピットを通り過ぎようとした時、ギョッとして立ち止まった。 「うわ、な、なんだ。どういうことだ、これ!」  英児は思わずピットに駆け込んで叫んだ。  そこには持ち上げられて宙に浮いている黒のスカイラインGTR、R32! 俺の愛車! 「おー、帰ってきたか。ちょっと間に合わなかったなあ」  しかもその車をいじっているのは、矢野じい。なんだか人を喰って楽しむ時の顔をしている。嫌な予感しかしない! 「なんでタイヤをとっちまっているんだよ!」 「依頼どおりにしてるだけだ」  仕事をきっちりとするときの親父の顔で言われ、英児はますます困惑した。  その親父がすることを見ていると、矢野じいが真新しいピカピカのタイヤを転がしてきた。  そのタイヤのメーカーと品名を見て、英児はまた卒倒しそうになった。 「ど、どうしてそのタイヤ!」 「ちなみに、これからこのホイールもはめることになっている」  矢野じいの足下にあるピカピカで渋いイカしたホイールをみても、英児は卒倒しそうになった。 「な、なんで。それがここにある。それは、俺が俺が、これから買おうと思っていたけれど、いろいろあってずっと先送りにして我慢していたやつじゃないか」
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