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予定より少し早く。英児は顧客廻りと営業と南雲氏との話し合いを終えて、港の城下町へと戻ってくる。
龍星轟に帰ってきてガレージにゼットを駐車させる。ガレージにスカイラインはまだいない。土曜だから早めに帰れそうと言っていたが、琴子の帰宅はまだのようだった。
ガレージを出て、ピットを通り過ぎて事務所へ――。と、目指していたのだが、英児はピットを通り過ぎようとした時、ギョッとして立ち止まった。
「うわ、な、なんだ。どういうことだ、これ!」
英児は思わずピットに駆け込んで叫んだ。
そこには持ち上げられて宙に浮いている黒のスカイラインGTR、R32! 俺の愛車!
「おー、帰ってきたか。ちょっと間に合わなかったなあ」
しかもその車をいじっているのは、矢野じい。なんだか人を喰って楽しむ時の顔をしている。嫌な予感しかしない!
「なんでタイヤをとっちまっているんだよ!」
「依頼どおりにしてるだけだ」
仕事をきっちりとするときの親父の顔で言われ、英児はますます困惑した。
その親父がすることを見ていると、矢野じいが真新しいピカピカのタイヤを転がしてきた。
そのタイヤのメーカーと品名を見て、英児はまた卒倒しそうになった。
「ど、どうしてそのタイヤ!」
「ちなみに、これからこのホイールもはめることになっている」
矢野じいの足下にあるピカピカで渋いイカしたホイールをみても、英児は卒倒しそうになった。
「な、なんで。それがここにある。それは、俺が俺が、これから買おうと思っていたけれど、いろいろあってずっと先送りにして我慢していたやつじゃないか」
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