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すると矢野じいがまたなにかを企んでいるような、人を弄ぶ時のような嫌な笑みを浮かべ、ホイールを手に持った。しかもそれの匂いをくんくん嗅いでいる。
「だよな。俺にはチョコレートの匂いがしねえんだけどよ。琴子がこれがチョコレートだって言い張るんだわ。おかしいよな」
また、ガツン――としたのが来た。
タイヤとホイールがチョコレートだとお!
つまり、それが琴子からのバレンタインの贈り物!?
はあ? いきなりスケールでかすぎのバレンタインが俺にぶっこまれた。と、英児はくらくらしてきた。
「見られちまったから言っちまったけどよ。琴子も仕事から帰ってきて、事務所で仕上がるの待ってるからよ。行ってやれよ。琴子に頼まれた時の発注ではバレンタイン当日までに間に合わなかったもんで、当日にプレゼントできないって琴子もかなりしょげていたんだからな。英児のやつきっと後でよろこぶから、素知らぬ顔で我慢しろって言ってやっていたんだよ」
「じゃあ、矢野じい……」
「まあな、琴子のお願いなら、おっちゃんなんでもゆうこと聞いちゃうんだわ。協力してくださいってかわいく言われちまったからよ。社長のおまえと経理の武智にばれないような発注をしちまったけどよ、怒んなよ、クソガキ」
「うるせい、クソ親父。びっくりさせんなや!」
もう驚くばかりで、英児はどうしてこうなったと混乱しながら、琴子がいる事務所へ――。
「英児さん――」
だが、振り返ったそこ、ピットの入り口にもう彼女が立っていた。
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