2355人が本棚に入れています
本棚に追加
/586ページ
そういうことか――と、英児も思い至り、琴子へと振り返る。
「そうなのか。琴子」
やりすぎたのかと琴子はうつむいたまま。
「琴子」
英児に呼ばれ、琴子がやっと顔を上げる。
「私また、へんに頑張りすぎたのかな……」
その通りだった。ほんと、この子は頑張りすぎてその度にびっくりさせられる。だから、英児もようやっと彼女らしいという嬉しさが湧き上がってきた。
「たっくよう、またガツンって来たじゃねえかよ。俺の嫁さん、強烈すぎるわ」
やっと笑って、OL姿の奥さんを英児は嬉しさいっぱいに抱きしめる。
「ありがとな、琴子。スカイラインをかっこよくしてくれてありがとな」
龍星轟のジャケットの胸元に、英児が大好きなOL姿の彼女を抱きしめる。琴子もやっとほっとした微笑みを浮かべてくれている。
「はあ、毎度あほらし。もうおっちゃんはやめた。英児、おまえ、自分でやれや」
タイヤ交換途中の作業を放って、矢野じいがピットを出て行った。呆れていたけれどあれでも親父も気を遣ってくれたんだと英児もわかっている。
それでも、英児はまだ琴子を胸元に抱きしめたまま……。しばらく彼女の黒髪にずっとキスをしていた。
「ごめんね、英児さん。バレンタインの当日に間に合わなくて――。知らない顔するのすごく辛かった」
「気ぃつかわせたな。そんな俺がゼットをおまえにあげたからって、気にすることなかったんだよ」
「気を遣ったわけじゃないけれど――。英児さん、みんなのお給与優先にして我慢していたみたいだし。私もスカイラインを格好良くしたかったの。私も欲しかったの、ほんとうは。それに英児さん、チョコレートなんて甘いもの苦手でしょう」
最初のコメントを投稿しよう!