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嬉しいよ、マジで――。今度は琴子の耳元にキスをする。空港からの冬の潮風が、ピットに吹き込んできたが、ぜんぜん寒さも感じずに、二人はそこで抱き合っていた。
でもほんとうは。英児の憧れは『女の子らしいちょっとしたものを選んでくれたカノジョのかわいい姿』だった。
「あのな、来年は普通でいいからな。俺だってよう、年に一度はチョコを食べたいんだよ」
そう来年。来年は女子的チョコをもらえるように祈っていよう。今年は斜め上にぶっとんだものがガツンと来たけれど、それもまたいい思い出になるだろう。
すると琴子がカーディガンのポケットからなにかを取りだした。
「あの、とってつけたようで……出しづらくなっちゃったんだけれど……。チョコは食べないと思っていたから。でも、そんなに甘くないのを選んだつもり」
琴子の手に、ハート形の銀缶がちょこんと乗っている。缶の横には青い石のチャームがキラキラ揺れている。
「これ、俺の、チョコなのか」
「うん。……あの、私の趣味みたいでまたごめんね。でもね、ここのチョコレート話題でおいしいの。チョコは英児さんでも食べられそうなビターなの」
うわあ、これだよ。これ! これこそ俺が憧れていた『いかにも女子チョコ』!
「琴子! ありがとうな! 俺、こういうのめちゃくちゃ憧れていたんだよ!」
小さなハート銀缶が乗っている琴子の手を、英児はぎゅっと握りしめた。
英児があんまり喜んでいるので、今度は琴子がきょとんとしている。
「え、嬉しいの? 英児さんの趣味じゃないでしょ」
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