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「愛子お義姉さんが持ってきてくれたの。この家にひきとってほしいって」
「姉ちゃんか! だからうちに来たのか!」
「うん。お盆のお掃除をしていたら出てきたんだって」
「まじかよ~。てか、俺に聞いてから持ってこいつーの。こんな……琴子に……」
そんなに嫌な姿なのかな? 琴子はちょっと首を傾げた。もちろん、琴子も高校生時代の垢抜けない自分を思うと気恥ずかしいばかりで、英児に見て欲しいとは思わない。でも……。
「そんなことないわよ。これ、この写真。すごく素敵なんだけれど」
この頃の俺が、素敵!?
ギョッとしている英児に、愛子がお気に入りの、そして琴子がふわっとときめいてしまった二枚の写真を差し出した。
金髪、短髪に、ガンとばしの作業服姿の英児。その後、兄と愛子の結婚式のためにきちんと黒髪に戻し、きりっと凛々しく黒いフォーマルスーツを着こなしている好青年な英児。
英児もなにかを思い出したのか、眉間にしわを刻み、怖い顔のまま黙り込んでいる。
「どっちも素敵ってときめいちゃったの」
そのままの気持ちを琴子が笑顔で告げた。なのに、英児は逆に不機嫌になる。
「こんな悪ガキの俺なんか、素敵なわけないだろ。さんざん母親や兄貴に姉ちゃん達に心配かけてきたんだから」
「でも。この頃からもう整備士としてきちんと働いていたんでしょう。いまの英児さんの雰囲気、ちゃんとあるもの」
「矢野じいにどつかれてばかりで、毎日ふて腐れていたけどな」
でも。それも若いからこそじゃない――と言ってみたが、英児は思い出したくない過去のようにして不機嫌なまま。
それでも琴子は英児にお願いしてみる。
「この写真、もらってもいいかしら」
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