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「はあ? そんなころの俺を?」
「うん。手帳に挟んで時々眺めたいの」
「なんでだよっ。そんな琴子が知らない頃の俺なんかより、目の前にいまの俺がいつも一緒にいるじゃないかよ」
ぱしりと写真を取られてしまう。
『琴子が知らない頃の俺』――。なんだか琴子の心にものすごく引っかかった。それにわけもわからない悔しい気持ちがこみ上げてきている。自分でもわけがわからない。
「その時の英児さんも、私にとっては大好きな英児さんにしたいの」
さらに琴子は……、湧き上がるまま言い放っていた。
「そうよ。英児さんが言うとおり私は、英児さんがヤンキーだった時のことなんて知らないもの。だから英児さんのその『ヤンキーだった時』も昔から知っていたみたいにしたいだけ!」
普段、それほど強い言い方をしない琴子の姿に英児が面食らっていた。
「ど、どうしたんだよ。琴子」
琴子も黙った。よく、わからない。
でも時々あることだった。英児の昔からの友人が訪ねてくると『こいつ、だっせえ頭していたんだぜ』、『おまえ達だっておなじだったじゃねえかよ』とやり合っている時も、琴子は『見てみたかったです』と笑うことしかできない。さらに。ちょっと気になっているのが英児の同級生と聞かされている『香世さん』という女性のこと。
彼女達は昔の英児を知っている。琴子が知らない彼女達だけの英児がいる。そんなことは……、英児が初めてではない琴子だっておなじ。それぞれ経験があって過去がある。そんなことは琴子だってこだわっていなかった。
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