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「アホか、おまえは!! 琴子はそんなもん望んでいないわ!! いますぐ黒く染めてこい!!」
琴子に隠し通せず、説得にも失敗した様子の矢野さんが、さっそく英児の頭をスパンと叩いた。
「なにすんだよ。このクソじじい! 俺と琴子の間のことだから放っておけつってんだろ!」
「このドアホ!! おまえ、もうすぐ実家に行くんだろ! こんな頭で、盆を初めて迎える嫁さん連れていくつもりか。親父さんがまた雷おこしてへそ曲げるだろ」
「金髪ぐらいで四の五の言う老人がおかしいんじゃねえの」
はあ!? おまえ、もう一回言ってみろや!!!
ついに矢野専務が、英児の襟首を掴みあげ、彼の鼻先に向かって鋭いガンとばし。
琴子は目を瞠る。金髪になってオヤジ達がいうことにはなんのその、俺の自由とばかりに見下げた視線を飛ばす英児に、その悪ガキを叱責する親父さんの構図。
目の前に、ほんとうにヤンキー時代みたいな彼と矢野さんが現れちゃった?
でも琴子も呆然。そうよ、そうよ。もうすぐ、お盆で滝田家に行くのに。どうしてその頭にしちゃったの!?
だけれどわかっている。『琴子によ、あの時の俺をみせてやって、それすらもおまえのもんにしてやるんだ』――と思ってくれたんだって。
―◆・◆・◆・◆・◆―
琴子はドキドキ、待っている。夕食の支度をしながら待っている。
「おう、ただいま」
彼がお店を閉めて帰ってきた。リビングに現れた彼はやっぱり別人のようなヤンキーな男性に。
見慣れなくて、琴子は返事ができずにいた。
「なんだよ。やっぱ、若くないと似合わねえのかもな」
短くなった髪を彼がざらざらっと撫でて、バツが悪そうな顔。
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