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ヤンキーだったころの厳つい彼も、私を愛してくれる、こんなに私の足を大きく開いて、おまえ俺のものなんだからと責めてくれる。
夏のせいもあるけれど、ベッドの上で、琴子は汗まみれになっていた。いつも以上に感じるのはほんとうにどうして?
「ああん、もっと、して」
金髪の悪ガキな夫が覆い被さるその背に、琴子は爪を食い込ませた。
夜が更け、ぐったりした琴子の隣で彼が暗がりのなか煙草を吸っている。
その匂いがどうしてか魔法を解く匂いのようにして、琴子の目を覚まさせる。
枕を背に腰を掛け、膝を立てて、煙草を吸っている彼は、金髪でも短髪でも……、琴子がよく知っている夫の横顔だった。
その英児がじっと部屋のドアをみつめていた。ちょっと怖い顔で。
「琴子が俺に夢中でよかった。安心した」
微笑みはもう、琴子が好きになった元ヤン兄貴の頼もしいものだった。
そこで琴子は気が付いた。
そういえば、去年のこの時期だった。琴子と英児の秘め事の場に、知らない女が踏み込んできたのは。あれは……凍り付いたし、怖かった。
それを琴子が思い出さないかどうか心配していたの?
それを思い出させないようなことをしてやろうと思っていたの?
ちょうどいい。琴子がそれで気が逸れるなら、やってみるか――って、わざと悪ガキの姿に戻ってくれたの?
そんな気がしてしまった。でも、もう……二人の間であのことは言葉にしたくないし話したくない。琴子も思い出したくないし、これで忘れたい。
琴子も力が抜けた身体を起こして、煙草を吸っている彼の肩に寄り添った。
「滝田のお父さんがどんなふうに怒るのか、見てみたいかも」
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