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その声に気が付いた麦わら帽子が止まった。そして葱坊主の中から、老人が現れる。
「おう、きたんか」
「琴子も一緒に来た」
「お義父様、お久しぶりです。本日はお邪魔いたします」
黒いワンピースで楚々と挨拶をすると、麦わら帽子の舅が琴子をひと睨み。琴子はドキッとする。
怖いじゃなくて。英児にそっくり! そう感じたから。
「いらっしゃい。暑い中、ご苦労さん。お父さんのお参りはしたんかね」
「こちらの帰りにさせていただきます。母のところで迎え火をする予定です」
「ほうかね。そりゃ、お母さんもお待ちだろうね」
「こちらのお母様にもご挨拶させてください」
「ありがとね。来てくれて」
にこっと笑いもしないお義父さん。でも、きっとこういう人なんだろうなと琴子は理解した。それが子供だからこそ、親はもっとこうあってほしいと英児も反発したのではないかと。
「父ちゃん。この茄子、うまそうだな。琴子のよ、焼き茄子うまいんだわ」
「ほうかね。それなら持って帰っていきや」
「トマトもうまそうだな。琴子のマリネがうまいんだわ」
「……英児、おまえのろけにきたんか」
笑いもしないロボットのようなお父さんの言葉に、英児が真っ赤になっていた。そして琴子もそんなおくびもなく『うまいうまい、嫁さんのメシ』といってくれるから頬が熱い。
「……いや、ほんとなんだって」
「のろけるなら、母ちゃんの仏前でしろ」
つっけんどんな言い方だけれど。でも琴子ならわかる。仏前でのろけて、母さんに安心してもらえ。そんな意味なんじゃないかと。
それに英児も真っ赤になったきりなにも言わなくなった。でも、言い返しもしない。
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