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お父さんと英児が野菜をいっぱいつんでくれた。琴子もトマトをいっしょにもいだ。
「いけね。姉ちゃんが早く家に帰ってこいと言っていたんだ」
「そろそろ帰ろうわい」
お父さんが収穫した野菜をカゴにいれて持ち上げようとしたが。
「俺が」
英児が父親からそのカゴを引き取ってしまう。そうして身体が大きくなった息子が代わりに運ぶ。
喧嘩をしそうな空気がなくなっていた。どうしてなのかな。琴子も覚悟をしていたのに不思議だった。
そんな父子のあとを琴子もついて、滝田家に戻る。
「おまえ、店はだいじょうぶなんか」
「なんとかやってるよ」
「また車をぶっ飛ばして事故なんかするな。もうおまえだけのもんじゃないんやけん。琴子さんを心配させんなや」
「わかっとるっちゅーのに」
「はあ、…… あのな、」
「はあ? なんだよ。せっかく帰ってきたのによお」
ああ、なるほど。こういう親心から説教が始まって、子供が煙たがって。どちらもいい大人だから余計に大喧嘩になるのかもと、琴子も見た気がした。
「お父さん、今度、遊びに来てくださいね。私、土日がお休みなので、一緒にご飯を食べていただきたいです」
琴子の声に、前を歩いていた二人が振り返る。
真夏の灼熱の中、汗を流している男が振り向いた顔がびっくりした顔が一緒で、琴子はさらに微笑ましくてにっこりしてしまう。
「ほうかね、琴子さん、ええんかね」
「もちろんです。お父さんのお野菜を調理したいです。おいしい食べ方、教えてください。ね、英児さん」
「お、おう。そうだな。うん、来いよ」
息子のその言葉にも、お父さんが驚いた顔をしている。
「ほなら、今度、行こうわい」
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