2.逃げられた!②

1/6
前へ
/586ページ
次へ

2.逃げられた!②

 翌日の営業時間も立ち直れなかった。 「タキさん、なんかあったの」  高校時代の後輩で店の事務を任せている武智も、英児の異変に気がついた。  それもそのはずで。社長デスクに座ったままガレージに行かない英児を訝しく見守っていたようだが、昼過ぎてもぼんやりとただノートパソコンに向き合っているので、黙って見ていた武智も業を煮やしたようだった。 「今日はガレージは無理。俺、散漫しているんだ。いま車を触っても、いいことない」 「そういう日が店長にもあるのはわかっているから、まだ皆黙っているけど――。矢野じいが苛つく前に、なんとかしておいて欲しいな」  武智はいつも店の雰囲気を重視していて、従業員のコンディションには敏感。でもだからこそ、上手くムードを作ってくれる。そんな男だったから、英児の落ち込みようが『すぐに切り替えられないほど落ち込んでいるようで、心配』だったようだ。  後輩と二人きりの、午後の事務室。親父と兄貴達がいないこの時。英児は、店長ではなく『昔馴染みの先輩と後輩』として昨夜の出来事を武智に話してしまう。『俺のタイプの子だった~』は話したが、彼女を裸にした妄想で失敗したことは勿論省略で。  すると武智がすぐさま笑った。 「やだな。タキさんらしくない。仕事も手につかず、うだうだしているってことは、彼女にどうしてあげたいかもう心に決めてるんでしょ。昔からそう。タイプの女の子には臆病。それ以外はすごく決断早いのにさ」  高校時代から英児を知っているだけあって、武智は『どうしたいのか』既に見抜いてくれる。 「……だな。そうだな! 俺、行ってくる。店、頼むな」
/586ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2361人が本棚に入れています
本棚に追加