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だが、少なくともブラウリオの想定ではあの日から10年という月日が経った今日という日までの間に、帝国は、必ず滅亡しているはずだった。
そしてそこに至るまでの腐りきった道中において彼もまた確実に命を落としているはずだった。
生き永らえた、というには余りにも多くのものが未だ手元に残ってくれていた。
その中で一番失う訳にいかなかった目の前の小さな花は、自分の命を使ってでも守るべき庇護者は。
彼を"護った"のだ、逆に。
まったくあべこべの話しである。
守るつもりが護られていたなどと。
それも年端も行かぬ小娘に。
彼が少女の前に立ち、盾となれたのはあの式典の日、一度きりのみ。それ以降、彼女が脅威に晒されたことは一度もない。
逆に彼の前に現れるはずだった刺客が別の何者かによって殺し返されること、多数。
結果、死ぬはずだった帝国も彼自身も今の今まで生き延びてしまう。
であるからこそ、彼は、帝国を盤石のモノへと変えた目の前の怪物女帝に対して、媚びへつらうわけにはいかなかった。
それは男として、軍人として、越えられぬ一線。
よって軽く彼女の言葉を受け流し、煽ってさえ見せる。
それまでと変わらぬように、他の誰にもできぬ愛情表現の代わりとして。
案の定、彼の軽口を女帝はお気に召したようだった。
逆に煽り返してくる。
「ふふん。稀代の変人総司令官様は人を見る目がないようですわね」
「ほっとけ。俺の専門は所詮人殺しなんだよ。人の中身まで気にしてられるか」
やりあっても勝てないのは分かっているので、ブラウリオはあっさりと引き下がる。
そのつもりだったが、少女は男の頬にその白くほっそりとした手を乗せたままで話しを区切るつもりはないらしい。
「そんなこと言って。私が経済と政治にやっきになってる間に、爆発寸前の火薬庫になっていた軍の清浄化をおじさまが全部やってくれたこと、私はちゃんと分かってるわよ。もちろん、汚い手の方も」
「ちっ。うちの諜報部まで抱き込んでよくやるぜ。お前が手を出さなかったのは俺を使えば足りそうだと思っただけだろうがよ。なんだ。今日は随分様子が違うと思ったら俺をしょっぴくつもりか?」
確かに男は野合の衆とも言うべき無能達を軍隊と呼べる形まで叩き上げた。
手段は問うまい。
結果が全てだ。
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