睦言は執務室で

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 だが、その全てを自分で勝ち得たなどとはとてもではないが思ってはいない。  陰日なたに見え隠れしたのは女帝の姿。  彼女の暗にも陰にも及んだ支えのお陰で彼は軍を一つの矢じりにまで練り上げることができたのだ。  彼女が分かっていないはずがない。  やっきなどと言ってもその目は、耳は、全てを捉えていたのだから。  男のそれら全部に溜息を吐きたくなるような言葉に対して、少女はさも心外とばかりに手を口に当ててみせる。 「まぁ! そんなつもりありませんわ。ただ、私はあの日のなにも知らない貴族の娘のままではないということを知っておいてほしかっただけです」 「……よく分かってるよ。そんなこたぁ。十分知ってるさ」 「本当に?」 「本当だとも」  ネレアは確かめるように言葉を重ねてくる。  疑っている、というよりは、確認しているような疑問符。  そして彼女はポツリと問い掛けを落とす。 「それは、私の命の恩人であるおじさまとしての言葉かしら? ……それとも、私の年の離れた恋人としての言葉かしら?」  それは今現在の帝国において、ほんの一握りのものしか知らぬ事実。  まことしやかな噂は数あれど、帝国軍隊を束ねる元帥と帝国そのものを統べるとまで呼ばれている若き首相であるところの女帝、彼らが懇意どころか恋仲にまであるとは容易には辿りつく事のできない真実であった。  なにせ少しばかり、いや大いに余るほどの年の差は祖父と孫娘とまではいかなくとも、間違いなく親と子以上には見た目も実年齢も離れた二人だ。  公の場で並んでいたとしても、手を組むわけでもない彼らの姿はとても恋人になど見えるわけもなく、人々はうら若き可憐な女帝とそれに仕える元帥閣下としか彼らを見ることは無かった。  だがネレアの言葉に偽りは無い。  彼女は確かにこの年嵩の恋人からかつて言質をもぎ取っていた。  そして一度認めた後に彼がそれを否定したこともなかった。  とはいえ、ネレアには小さな不満があった。 「言わせる気か?」 「あら、私だって女ですもの、たまにはちゃんとした言葉で伝えていただかないと、落ち込んでしまいますわ」  彼女の恋人はなかなか彼女を喜ばせてくれることがない。  それは、他に耳目のない甘い空間になるはずの二人きりであってもほとんど垣間見る事が出来ないほどだった。
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