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「貴様も早く乗れ病原菌。」
叱責する怒鳴り声と共に腕を掴まれた僕は、抵抗も虚しく屈強な肉体をしている兵士に容易に引き摺られる。
「レオ!」
「イザーク!」
「貴様も来い!!!」
兵士二人に両腕を捕らわれた彼が、それを必死に振り切って僕の元へと駆け寄った。
「愛している。永遠に愛している。」
たったの二言。されど二言。僕にとっては十分過ぎるそれを囁いた彼が僕の唇に接吻を落とした。冷たい冷たいその口付けに、僕の目から落ちた涙がホームの地面に染みを作ったのもほんの刹那、僕等はすぐに引き割かれそのまま暗闇が包む貨物車へと押し込まれた。
扉が閉まる。鍵が掛けられる。やがて出発の汽笛を鳴り響かせながら、それは動き始めた。
一九四二年、十二月十日の木曜日。氷点下十五度。行き先はアウシュヴィッツ強制収容所。
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