20人が本棚に入れています
本棚に追加
テレビの中では、主人公らしい可もなく不可もない普通の青年が、片思いの女の子の窮地にただ見ていることしか出来ていない、もどかしいシーンが流れている。
情けないな。僕なら絶対に助けに行くけれどな。
そう思いながらテレビを見ていたら、主人公のやたらイケメンの友達が、主人公の頬をいきなりビンタして言った。
『好きな子のためなら、何だってできるだろ』
その通りだ。それでこそ男だ、と僕はウンウン頷いていた。
その言葉に何かを感じた主人公の青年は、再び片思いの女の子の方を向き直った。
ここで行かなきゃ、男じゃないだろ。僕が期待を込めて画面に見入っていると、
プツン
テレビの電源が切られた。
「今、すごくいいところだったのに、何で消すんだよ、お母さん」
僕は振り向きざまに、テレビのリモコンを持っているお母さんに食ってかかった。
「何時だと思ってんのよ。明日は転校初日でしょう。早く寝なさい」
時計を見やると、もう二十三時を回っていた。確かにもう寝ないとまずいな。
「もうこんな時間だったんだ。そうだね、もう寝るね。お母さん、おやすみ」
そう言って僕は、紐解きが済んだばかりの自分の部屋に戻って、ベッドに寝転んだ。さっきのドラマの主人公はあの後、片思いの女の子を助けに行ったんだろうな。そんな事を考えながら、いつの間にか僕は眠りに落ちていった。
最初のコメントを投稿しよう!