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思えば遅い初恋だった。
あれから幾年。
時折、冷たいあの人を思い出すのだ。
「寒くなって来ましたね」
「そうだね」
カサカサと足元の落ち葉が鳴る。
時を経て、手の皺が増えた。
寒くて乾燥する季節は指先が氷のように冷えていく。
口元に近づけた手に息を吐けば小さな白い雲が湧きあがり消えていく。
後ろ姿がゆっくりと振り返り、手を差し出した。
少し驚き、やがて微笑む。
同じように皺の増えた手のひらを見つめながら重ねた。
「冬は温かいんだと知った時は驚きました」
もうあんな風に汗だくになったり、夏の日にペットボトルを凍らせることは無くなった。
ふふっと思い出し笑いをしながら隣を歩く。
君は不思議そうな顔。
そうして、あの日のように目を細めて私を見つめるのだ。
(終)
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