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彼は、いつも凍らせたペットボトルを片手に汗だくで授業を受けていた。
ほとんど話す機会は無かったけど、帰りの時間が近づくにつれ後ろの席から涼やかな音色が聞こえてくる。
カラコロ…
カラ…
最初は何だろうと不思議に思っていた。
ある日、前から来たプリントを渡そうと振り向けばゴクリと喉を鳴らして水を飲む君。
頬を伝う汗とペットボトルを濡らす雫が同時に落ちて夏の日差しに反射する。
不思議なほど綺麗で透明感のある世界。
下ろしたペットボトルの中で溶けかかった氷がカラリと落ちる…
何故か蝉の鳴き声が遠くに消えていた。
渡そうとしたまま止まっていた手。
気づいた彼がプリントを取ろうと指を伸ばした時。
微かに触れた指先は夏だというのに氷のように冷たくてハッと離した。
「つめた!」
「あ、ごめん」
目を細めて面白そうに笑う。
慌てて前に視線を戻す。
戻ってきた蝉の声。
速くなった心臓の鼓動。
訳がわからないまま、熱い頬へ冷たさの残る指先で触れた。
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