お前だけだよ

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 ぐすぐすと鼻を鳴らし、弱ってる風を装うと、しづきがそっとあやすように抱き寄せる。これもまたお決まりだった。  最初にそう仕向けたのは俺だ。顔を見られたくなくて、始めたことだった。 「お前が親友で良かったよ」  本心からぽろりと口をつく。 「はいはい」 「本心だぞ〜!ほんっと、他のクズどもよりお前の方がいいわ」  茶化すように言いながら、今自分がどれほどひどい顔をしているのかと考えた。  少しだけ強く抱きしめられたことに、愉悦を覚えて口元が変に歪む。  恋人になりたい。けれどこの歪な関係のまま、特別な存在でいたい。 「泣かないで」  そう言って慰めてくれるお前は何を考えているんだろう。  そう思いながら、しづきの体を強く抱きしめ返した。 「お前だけだよ」  そう繰り返す。そうしたらきっとお前は俺から離れていかないから。
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