友達の話なんだけど

お前だけだよ

「勝手なんだよ。どいつもこいつもクズばっか」
　ビールを飲み干し、まずそう口火を切った。泣きながら酔っ払うフリをして、さもひどい振られ方をして傷ついた風を装う。
　しづきは「そうだね」と相槌を打って、俺の涙を拭った。
「俺が少し出張でいないって言ったら、俺の家に女連れ込んでんだよ。よりにもよって！女！クソ野郎」
「そんな奴別れて正解だよ。そんなクズはお前には似合わない」
「しづき〜っ！やっぱ俺、お前が一番だわ……。お前と親友で俺は幸せだよ！」
「はいはい分かった分かった」
　涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を雑にティッシュで拭かれ、適当にあしらわれる。これがいつものおきまりで、俺のお気に入り。
　俺が恋人を作って、テキトーなタイミングでテキトーに別れて、未練たらたらの振りしてしづきの家に押しかける。そしてまた同じことを繰り返す。
　だってそうしたら、しづきは俺の特別な親友のままずっとそばにいてくれるから。
　いつか別れるかもしれない恋人なんかじゃなくて、もっとずっと特別な親友のまま。しづきの人生に組み込まれる。　
　そんな嬉しいことはない。
「お前だけだよ」
　そう言ったらお前は俺のそばを離れられないだろ？