6人が本棚に入れています
本棚に追加
家の冷蔵庫の中には、『彼』が眠っている。
窮屈そうな彼を、一日に二度は出してあげることが、私の日々の日課だ。
まぶたを開けば焦点の合わない濁った眼球が見え、抱き締めても昔のようにそれを返してはくれない。無論、体温なんてあるはずがない。
彼は数年前に死んでいた。通り魔に刺されて、呆気なくこの世を去っていったのだ。
墓を掘り起こし、遺体を自分の家に持ち帰った私は、よくこうして彼を眺める。そして毎日必ず、体温計を彼の脇にそっと添える。
もちろん、結果はいつも同じ。当たり前のように虚しい電子音が鳴り響き、体温計には「Error」の文字が表示されるだけ。冷蔵庫に入れても入れなくても、変わらず彼は冷たかった。
「……ねえ」
私、あなたがまだ温かかった時のことが、今では思い出せない。
最初のコメントを投稿しよう!