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カーテンが揺れる。薄いクリーム色。わずかに開いた窓から、校庭で駆け回る青少年たちの声とホイッスルの音が鳴り響く。
卒業式の日には咲き誇って淡い花弁を舞わせるだろう桜の木が、満開寸前だ。
俺は、後ろの席に椅子を向けて座っている。何気ない会話をして、俺が少しからかって、後ろの席のきみはまったく仕方ないな、とでも言いたげに眉を下げて、一言二言、口数少なく答える。
言葉が途切れる──俺は、ふと目を上げた。
視線を感じてまぶたを上げれば、そこには真剣な瞳があった。さっぱりした短めの黒髪。誠実さと無骨さを秘めた顎のライン。そして、何か言おうとしているような、黒い瞳と開きかけの唇。
「辰巳……?」
喉が乾いて、かすれた声が出た。
俺はまっすぐな視線を受けて、少し動揺したかもしれない。
「どうしたの、顔、怖いよ?」
そう言ってからかってみせる。
心臓が、とく、とく、と強く鳴って、痛いくらいだ。
小首を傾げて曖昧な笑みで固まる俺に、ずっと思いを寄せていたおさななじみは、低く一言、たった一言を、告げた。
「ハル。……好きだ」
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