おさななじみと小麦色

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 短大をほどほどの成績で卒業した俺は、しかし進路に迷い続け、フリーターとしてアルバイトを掛け持って生活をやりくりしていた。けれど身体はへとへと、睡眠時間も削って働く俺に見かねて声をかけてくれたのが、おさななじみの江川辰巳だった。彼は今、都内のホテル内でフロントに立ち、働いているらしい。裏方の仕事でよければ紹介できる、と言われ頷いたのは純粋な気持ちばかりではなかったことは確かだ。  好きな人の側で、仕事ができる。それは疲れ切って弱っていた俺の判断力をさらに鈍くさせるには充分だった。  幸い、そのホテルは一人暮らしのアパートから遠くない。辰巳もこの辺りに住んでいるのだろうかと思えば、寂しさと怖さを感じた人の気配のない部屋すらも俺の胸を踊らせた。  
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