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秋の澄んだ寒い朝、俺はトートバッグを肩にかけ歩いていく。スーツ姿のサラリーマンたちが駅へ向かうのとすれ違いながら、彼らの反対側へ。あまり通ったことのない道に、俺はスマートフォンを開いた。マップを開いて、道順を確認する。
「えっと、コンビニがあそこ……」
恥ずかしいが、俺は地図を読むのが苦手だ。男は地図に強いとかいう伝説は嘘だ。だって俺がいるもの。生ける証拠だ。きょろきょろしていると、背中に衝撃があった。
「っ、」
小さなうめき声がして、聞き覚えのある落下音。がちん、と音がして、俺の足元に黒い背のスマートフォンが落ちてきた。俺のものではない。拾い上げようとすると、それよりやや早く腕が伸びてきた。
「いい。拾う」
俺の一瞬の躊躇いを察したように吐かれた言葉は、ひどく無愛想で、思わずぎくりとしてしまう。
「す、すみません」
咄嗟に謝るけれど、スマートフォンを拾い上げたその人は応じることもない。ただ、今の落下でついたのかもしれない傷に、ちょっとため息をついた。
その顔に、俺は目を丸くした。綺麗な小麦色の肌だ。地の色なのか、パーカーの袖から覗いた手首も腕も小麦色。平均的な身長の俺より少し背が低くて、あどけない瞳が大きい。アイドルとか、そんな感じの可愛らしい顔立ちの男の子だ。
「……何か?」
俺が見ているのに気がついたのか、彼は視線だけ軽く上げてじとりと俺を見た。
「あ、ご、ごめんなさい。お怪我は……」
「ない」
「スマホは……?」
「別に」
見事な無愛想っぷりだ。俺は苦笑いをこぼして、小さく頭を下げた。
「すみませんでした。じゃあ、俺、失礼しますね」
そして、そそくさと背中を向けて立ち去る。顔は少年みたいに可愛いけれど、結構怖い子だった。人は見かけによらない……。
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