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トートバッグを肩にかけ直し、歩調を緩める。少し気になって、そっと後ろを振り返った──そして、ぎょっとする。
ついてきている。悩みのない歩調で、さくさくとついてきている。
な、なんで? 俺、恨まれてる……?
動揺をなんとか飲み込んで歩くペースを上げた。足音は後ろからついてくる。怖い。カツアゲとかされるんだろうか。それとも、何かもっと怖いことが……。
心臓がばくばくと鳴っているのは、早歩きのせいだけじゃない。俺はスマートフォンを祈るように握り締めた。いざとなったら、どうすればいい? 辰巳に連絡……、思ってから、首を振る。辰巳だって、出勤途中に急に「知らない人に追いかけられています! 助けてください!」なんて、しかもいい年した大人のおさななじみに言われたら困るだろう。ため息をつくのが見えた気がする。
じゃあ、どうすればいいんだろうか。いや、そもそも、ただ道が一緒なだけの可能性だってある。ただ歩いているだけで騒がれたら、今度は後ろの彼が困るだろう。
おちつけ、俺。
俺は深呼吸し、歩調をそっと緩め直す。追い越してくれないかと期待したのだ。足音がみるみる近づいてくる。スマートフォンを握り締め、トートバッグを体に引き寄せ、俺は息を潜めた。
一歩、ニ歩と近づく足音が、俺の横に立つ。そして、何事もなかったかのように、追い越していく。
「……っ」
良かった、何もなかった……。俺は不必要に詰めていた息を吐き出した。胸を撫で下ろす。すれ違いざま、ちらりとこちらを見ていたのは気のせいだと思いたい。
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