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プロローグ
1ページもめくっていない本から、この物語は始まったんだ。何もない俺の生活に、空から落ちてきたようなそんな物語。可愛いとか、綺麗とか、美しいとか自分の中の言葉も陳腐に感じるほど、持っている言葉では足りなかった。
この時ほど、言葉を身につけておけば良かったと思ったことはない。
瞳に、耳に、心に刻みつけた日々。
耳をくすぐる風鈴のような透き通った声を。
少し窓の空いた隙間から流れる風に舞う髪の毛を、
木漏れ日に透ける長い睫毛を、
柔らかな日差しに煌めく眩しいあの黒い瞳を。
瞳から流れる、月明かりに光あの涙を。
きっと、俺はあの日々を生涯忘れない。
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