悪しきもの

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 言わずもがな、そこはあの祠の前だった。父が私の言うようにブレーキをかけて車を止める。心配そうに母が私を見る。    入院生活ですっかり多くなった荷物を手に持ち、車のドアを開ける。 「家まで運ぶぞ」  父が振り返って言ったのを、私は笑顔で断った。 「ううんもうそこだし大丈夫! 少ししたらまた実家に行くからね」 「無理しないのよ」 「うんありがとう!」  未だ心配そうに私を見つめる二人に手を振り、そのまま車から降りた。目の前に木々が生い茂る見慣れた光景がある。ソウスケが咲かせた花たちはとっくに散っていた。  ドアを閉めると、車がゆっくり発車していく。それをしっかり見送ると、私はすぐに振り返った。  今にも朽ちてしまいそうな古い祠。ご利益なんて何もなさそうな、ひとりぼっちの祠。  私は両手に持っていた紙袋を放り投げる勢いで地面に置いた。すぐに駆け寄っていく。 「ソウスケ!」  砂や土を被ったそれに手を伸ばす。汚れを少し払って、私は呼びかける。 「ソウスケ? 退院できたの、出てきて!」
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