悪しきもの

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 彼の顔が固まる。顎から汗の雫が垂れた。その顔に、触れたいと思った。 「私は、も、いいから……消えちゃうよ……」  分かっていた。  あやめを助けるとき消えかけていたソウスケが、あの黒い影を消滅させて、さらにはたくさんの人の命を助けてくれた今、力がほとんど残っていないことを。  これで私の傷までなんとかしようとしては、ソウスケは消えてしまう。 「沙希」 「ありがと、願いを聞いてくれて……」  私を助けるために彼が消えてしまうなんて、耐えられないと思った。  ソウスケを強引に家から追い出して一人になり、自分のせいで起きた事故の後処理までしてくれたのに、これ以上迷惑かけたくないと思った。  他の人が助かったなら、もう、いいと思った。 「沙希」  ソウスケの表情が歪む。そしてその手を伸ばして、私の髪を撫でた。  彼の手は大きくて冷たかった。ひんやりとした体温はこの世のものとは思えないほどだ。  ソウスケは笑った。汗だくのまま、目を細めて。 「あんたはいつもそうだ。自分より人を助けてくれと私に頼む」 「だ、って」 「大丈夫、私はまだ力が残ってる」 「でも」
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