悪しきもの

23/44
前へ
/193ページ
次へ
  「……ますかー……」  遠くで聞こえる声に、自分の瞼が動く。 「大丈……すか……返……でき……」  ピクリと右手が反応したのに気付く。ぼんやりとした意識のまま、私が目を開ける。  飛び込んできた光景は、真っ白な服だった。それを見た瞬間、ソウスケだと思った自分は一気に意識が鮮明になる。 「あ! 目を覚ましました、わかりますかー」  ソウスケではなかった。白いそれは、白衣だった。男性の看護師が、こちらを覗き込んでいたのだ。 「……あ」 「わかりますか? お名前言えますか?」 「藍川……沙希」  問われるがまま答える。看護師は安心したように頷いた。近くに医師もいたらしく、何やら報告する声が聞こえる。 「ソウスケ、は?」 「はい?」 「ソウスケ……」 「お連れさんですか? まだ搬送されてない人たちもいますので……なんせ多くの人が巻き込まれたので」  私の腕に巻かれた血圧計を操作しながら看護師は答えた。周りをようやく見渡し、ここが病院内だと理解する。白い壁、独特の匂い、心電図モニターの音。私は腕に点滴が繋がれていた。
/193ページ

最初のコメントを投稿しよう!

769人が本棚に入れています
本棚に追加