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この世の中には2種類の人間がいるという。
運がいい人間と運が悪い人間。
それぞれ自分でこれまでの人生を考え、どちらに属するのか答えが安易に出るだろうが私は非常に難しい。
「また車に轢かれたの……?」
引いたような顔で、いや、これは完全に引いた顔で友人のあやめが言った。私は口を尖らせる。
「ええ、1ヶ月ぶりです」
「んで、また無傷なの?」
「おかげさまで」
「沙希。あんたって運がいいの、悪いの」
「それは自分でも何度も考えてる」
「さすが幸と不の女神」
「その呼び方やめて」
あやめは目の前のカフェモカを一口飲んだ。二人で座るカフェのテラス席はあまり人もおらず静かだ。私はショートケーキの苺をフォークで転がす。
赤いその果物を眺めながら、大きくため息をついた。
藍川沙希。そこそこ気に入ってる私の名前だが、周りにいる人たちはその名前より私のあだ名の方が印象に残っているはず。
それが、『幸と不の女神』。
誰が呼び出したかは知らないが、的を得ている、と自分でも納得してしまうから困った物だ。
不。不運のこと。私は事故などに巻き込まれる事が異常に多い。
車に轢かれる、乗っているバスが事故を起こす、海で溺れる、自転車のブレーキが壊れて坂道を転げ落ちる、その他諸々。
その経験を話せば100%の確率で人は引いて私と距離を取る。友達でいてくれるあやめは奇特な人だと思う。
だが忘れないでほしい。私は幸も持っている。
これだけの危機にあいつつも命が無事であるだけではなく、かすり傷一つ負わないのだ。それはもはや奇跡と言ってもいいだろう。
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