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あなたはアオがよく似合う
「よっす。元気?」
半年ぶりに会った先輩は、変わらず大人びて艶やかだった。耳の中頃で切り揃えられた髪のすぐ下、シンプルなデザインのピアスが揺れて碧く、街灯の光を反射していた。駅から歩いて数分、ここのところ寒い日が続くことを確かめ合うようなやりとりだけで、先輩の部屋に着いた。
「いらっしゃい」
ドアを開けて入室を促される。土間の端に、紅いハイヒールが窮屈そうにそろえてあった。珍しいですね、と言うと、「そう?」と先輩は目で笑った。
ハイヒールを覆うように膝を折って、上り框に腰かけた先輩は、履き古した濃緑色のスニーカーの紐を丁寧に解く。
抜けた奥の六畳間は白いLEDの下でいや空っぽで、隅には閉じた段ボール箱が二つ。物の少ない部屋に酷く目立った。六カ月の懐かしさもある。それから少しの違和感も。答えのない間違い探しのようだ。
「電気ストーブつけて。私、お茶入れてあげる」
背中の方でそんな声がした。掃き出し窓の手前にあった膝丈ほどの電気ストーブには上面に二つのボタンが並んでいて、それぞれに太いマジックペンで粗く「上」「下」と書かれてあった。私は「上」を押した。ジィーっと繊細な金属の震える音がして、下部の電熱線が橙色に光りはじめた。私は「下」を押した。上部の電熱線が仄かに熱く光り出した。
ひどく腹がたった。
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