多頭飼育

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多頭飼育

 先に到着していた軽部さんは、傍らに老女を連れて待っていた。私が車を降りると、ツナギ姿の軽部さんは「ユニコーンと車が事故ったんだってな」と白い息、訳知り顔で頷いた。  待ち合わせ場所の空き地から目と鼻の先の、薄汚れた民家に三人で向かった。老女が慣れながらもどこか余所余所しい手つきで引き戸の玄関を開けると、建て付けの悪い不快音に乗って腥い臭気が濃密と漂ってくる。私と軽部さんは頷き合った。  土足のまま這入る。ドッグフードが家中に散らばっており、ステンレス製のエサ皿が三枚一組で、これもまた家中に点々と置かれていた。ドライフードはともかく、ソフトな餌はがびがびになってひどく汚らしかった。老女はくしゃみを繰り返し、咳込み始めて、忌々しそうに出て行ってしまった。  手分けして家を見て回った。奥座敷の窓際には古い小さな箪笥があって、腐った畳の上で傾いていた。載せてあった写真立てには禿頭の老爺と一匹のケルベロスが写っている。割れた窓からは冷たい風が吹き込んでいる。
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