第一章・―布団―

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「なぁ。知ってるか? 隣に住む奥さんは、毎日布団干してるんだってよ。お前は何でやらないの? 一度も干した事、ないよな?」  ーーきっかけは、こんな言葉だったと思う。  日曜の昼下がり、食器を洗っている最中の私に、ソファに座ってテレビを観ながら、夫がそう聞いてきた。  しかも、わざとらしい、嫌味な言葉尻で締めるのだ。  だから私は、無言でぴくりと反応して、食器を洗う手を止める。  ……それが一体、何だと言うのだろう。毎日無意味に布団を干すのが、そんなに偉いのだろうか?  外での作業であるならば、天気にだって左右されるし、毎日干していたら、逆に布団には良くないと思うのは私だけなのだろうか。  それに私は知っている。  何故急に、夫がこんなに布団を気にするようになったのか。正確には、隣に住む奥さんの動向を気にするようになったのか。  ……本当にそう思っているなら、手伝って干してくれてもバチは当たらないわ。  少なくとも、無駄にテレビを観ている時間よりは有意義に過ごせるわよ。  そんな言葉も馬鹿らしくて出てこない。本当に、一体この夫は妻を何だと思っているのかしら。
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