第一章・―布団―

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 だけどそんな気持ちは、決して口には出さない。  その代わり、優しい声音を装い応えるだけにする。 「そうなの? 毎日凄いわね」  嘘だわ。本当はそんな事、微塵も思っちゃいない。  嗚呼。私の(なか)で、醜い感情がどんどん産まれて、溢れていくわ――。 「うん。ちゃんとしてるって感じ。お前も少しは見習ってくれよ」  布団を毎日干した程度でそう言われるなら、全国の主婦は、毎日家事をこなしているだけで畏敬の念で見られなければ、割に合わないわよねぇ。  それにねぇ。私の分()ちゃんと、定期的に日光に晒しているわよ。  ここに住むようになって、今まで一度だって干した事がないのは……。そうねぇ。やっぱり、夫の分だけかしらね。  もしかしてこの人、何故自分だけがそうされるのか、本気で理解していないのかしら?  だとしたら笑えるのだけど、だからと言って、本当に笑ってはいけないわよね。  さて、洗い物も終わったし、ちょっと天気も悪いから、先に洗濯物が乾いているかチェックしておきましょうか。  中庭があるのはとても便利だわ。だけど天気の悪い日には、外に置いておけないのだから、少々不便ではあるのだけれど……。
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