第一章・―布団―

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 そんなに広くもない家で、実に数分かけて辿り着いた時には、もう何の声も音もしなくなっていた。 「……あなた?」  あら。確かにこっちにきたわよね? 合っているわよね? なのに何故、夫が跡形もなくなっているのかしら。  不思議ねぇ。  ……そう思いながら辺りを見回して、破れた布団の傍に黒いゴミが落ちているのを見付けてしまう。  あらあら。大きい、とても邪魔なゴミねぇ。何だかヘンな形だけれど、コレがここに在るのは変だわねぇ。  ふふふ……。さぁ、邪魔なゴミは棄てましょうか。  とても清々しい気分になり、思わず歌って踊ってしまいそうになる。  そこをぐっと堪えてから、おもむろに襟首を掴んで、引き摺って、リビングを通って、窓を開けて、中庭に出て、隣の庭にソレを投げ込んでやった。  そんなに好きなら、あげるわ、ソレ。  だって私、もう要らない。ゴミは棄てましょうか。要らないから、投げ込んで、黒くなった手を払い見詰める。  黒い蟲。蠢いて気持ち悪いけど、あんなゴミより数倍ましだわ。
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