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驚愕の事実
和彦さんの家を出ると、私はそそくさと隣の家に入る。
「お疲れさん」
モニターを見ていた松野管理者から声をかけられた。
「ほんとに疲れました」
私はモップのようなごわごわのかつらを掴み取る。
「和彦さんがまた外を見てる」
松野管理者の声に私はモニターを覗く。
モニターに映る和彦さんは窓際に立っている。横を向いたとき、なにやら口がもごもご動いているように見えた。
「なんて言ってるのかしら?」
私は気になって壁に取り付けた集音装置のボリュームをあげた。
「あれは誰だ」
え、どういうこと?
「いつになったら佳代は帰ってくるんだ」
まさかバレてた……。
「あら、また呟いてるのね」
ここで私は驚愕の事実に気がつく。
「そういえば松野管理者って松野佳代って言いましたよね。もしかして……」
「うふふ。そうよ。和彦さんの妻、佳代は私のことなの」
「え、でも苗字が……」
「松野は『待つの』からもじった偽名。私は和彦さんとケンカしてあの窓から出て行ったの。それからあの人はずっとあそこで私の帰りを待ってるみたい。隣にいるのに気がつかないなんて、ほんとバカよね」
「じゃあ、軽い認知症というのは?」
「全部ウソよ。でも私は自分が生まれ育った町の人たちを見守りたい。そう思ったからこうして事業を起ちあげたの。和彦さんの隣の空き家を使ってね。それもこれもケンカして出て行ったあと宝くじを当てたからだけど」
それが資金源だったんだと私はようやく納得した。
「他の社員もみんなそうよ。夫だったり、実家だったり。とにかく年寄りは口うるさい。だからみんなモニターで安否を確認して、交代で見守ることにしたの。空き家はいっぱいあるから住むとこはなんとでもなる」
「え? じゃあ、もしかしてこの家は……」
「そう。勝手に使わせてもらってるの。でも安心して。お金はいっぱいあるから。あなたひとりぐらい養える。ちゃんとお給料は出すから。これからも頼むわよ」
夫婦ってオンラインで見守るぐらいがちょうどいいのかもしれない。
まだヒヨッコながら私は早くも先の人生が見えたようでモニターに映る和彦さんをじっと見つめた。
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