高卒ルーキー紗耶香

2/4
前へ
/10ページ
次へ
 私が住む町は人口数百人の小さな町だ。  田圃と畑のほかには何もないところ。  だから活きのいい若者は夢と希望を求め、町外に流れていく。  そうして町には身寄りがなく見守りが必要な独居老人が溢れだした。  近隣の養護老人ホームをはじめ受け入れ施設はどこも満員。  やれ困った。と町役場の役人たちは頭を抱えた。  そんな現状を打破すべく、松野管理者が起ちあがったと聞く。  松野管理者はとにかくパワフルな女性で、とうの昔に七十を過ぎているという話だが、年齢を感じさせない妖気、いや生気に溢れており、誰もが彼女の前では怖気づき、言いたいことの半分も言えなくなってしまう。もちろん私のようなヒヨッコは管理者の前では釣り上げられた魚のようにビクビクしている。とにかく超がつくほど怖いのだ。 「プライバシーなんて言ってたら年寄りは救えない!」  彼女の声かけの下、界隈の独居老人の家にはいたるところAI機能を搭載したカメラが取り付けられ、オンラインで二十四時間監視、いや見守りをすることになった。  さらに「リビングで見てるだけじゃダメ! 爺さん婆さんは現場で生きてるんだから」と意気込みは熱い。  それが私の働く職場『オンラ・インヘルパーズ』だ。  組織の名称について一度誰かが区切るところを間違ってないかと言ったらしいが、管理者の一睨みで口を閉ざしたらしい。  以来誰も触れることはない。  オンラ・インヘルパーズの活動拠点はそんな管理者の自宅の一室、今は亡き管理者の両親が住んでいたというごく普通の民家の中にある。  資金源は不明。とにかく熱い組織だ。 「紗耶香が来たので始めます。まず夜間に行動があった方ですが……」  夜間待機者からの申し送りが始まった。遅刻魔の私待ちだったのだ。 「一番エリアの将雄さんは夜中に何度もトイレに行ってました。二番エリアの芳雄さんはテレビをつけたまま寝てました……」  毎回たいした報告はない。  とはいえこの春入社したばかりの私はまだ慣れない職場に緊張を感じながら、夜間待機者からの申し送りに耳を傾ける。  独居老人のお宅をエリアごとに区切り、数人が交代で見守っている。対象者は介護が必要なほどじゃないが、かといって独りでは心配という人たちばかりだ。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加