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高卒ルーキー紗耶香
朝八時。板張りの短い廊下を急ぎ足で進む。その先にあるドアを開くと、狭いリビングの壁には小型モニターがトンボの複眼のように上下左右隙間なく埋め込まれており、どこかの家の部屋の様子が映し出されている。
「次!」という声で、画面が切り替わる。
今度は別の家の部屋が映し出される。
「次!」
画面は次々と切り替わっていく。
どの部屋にも爺さんまたは婆さんが独りでごそごそ動き回っている。その映像を年配の女性たちが食い入るように覗きこんでいる。
「おはようございます」
恐る恐る挨拶すると、
女性たちの目が一斉に私のほうに向けられる。
ああ今日も私が最後だ……。やばい。
「紗耶香、一分遅刻! そんなんじゃ年寄りの命がひとつふたつ消えてもおかしくないよ。気をつけなさい」
すらりとしたパンツスーツに身を包む松野管理者の怒声に私は平身低頭しながら輪に加わる。
部屋には組織のトップである松野管理者を含め、おばちゃんたちがぎゅうぎゅう詰めで並んでいる。みなけっこうな年齢だ。そんな人生経験豊富な先輩たちの中、私はまだ十八歳の高卒ルーキー。ピヨピヨのヒヨッコだ。
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