イメージ論

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イメージ論

人の持つイメージについてよく考える。 私が思う誰かのイメージ、他人の思う私のイメージ、私が思う自分のイメージ。たった一瞬の強烈な出来事がもたらすイメージ、長い時間を共にした上で生まれる確信めいたイメージ。 イメージと一言で言っても色々あるし、対象が同じでも人によって抱くイメージは違う。 例えば、今、ランチバック片手に鼻歌混じりで休憩室に現れ、こちらに歩いて来る新入社員の渚ちゃん。 クリッと丸い大きな目をしていて、笑うと可愛いえくぼができる丸顔で、小柄だけどスレンダーすぎないスタイルの持ち主。私が思う愛され女子の要素を兼ね備えている上、人懐っこくて甘え上手だ。 渚ちゃんと一緒に働くようになってすぐ、同期の中川に「渚ちゃんって色で例えたらクリーム色って感じだよね」と話したら鼻で笑われた。 ――あの子、どう見てもそんな可愛いもんじゃないでしょ。もっとこう……野心漲る毒々しい赤とかそんな感じ。あんた、気をつけなさいよ。 口は悪いけれど親切であっけらかんとした性格の中川は、人間関係を作るのが上手い。基本的にポジティブ思考で、誰かに対してマイナスとも取れるイメージを言うのは珍しかった。 上司に「キャラが被っている」と言われたのが面白く無かったのか、似ている同性同士は仲良くなれるかなれないか両極端だからなのか、ハッキリした理由はわからないけれど、相変わらず良く思っていないらしく、今も中川は近づいてくる渚ちゃんの気配を無視して私の隣でモソモソとお弁当を食べるのに集中している。 「葵さ~ん。次のお休み、この間話していた映画観に行きません?私は火曜でも水曜でもどっちでもオッケーです。火曜ならご飯食べてからレイトショーで、水曜ならサービスデーだから何時でもって感じですかね?」 私の予定が空いている前提で、ペラペラとプランを話し始めた渚ちゃんに思わず苦笑いしそうになったけれど、エヘッとえくぼを出して笑う顔は無邪気そのもので、よっぽどヒマ人だと思われているのか、と少し卑屈な考えが浮かんだ自分の方が間違っていると思わせるパワーがあった。 まぁ、悪気は無いだろうし、渚ちゃんの気持ちはよくわかる。 私達が働いているのは住設機器メーカーのショールームで、休みは火曜日と水曜日。遊びに行きたくても休みが合う友達がほとんどいない。 貴重な休みに職場の先輩を誘うしかない程、困っているんだろうと思うと少し気の毒になった。 「うん。火曜日なら大丈夫だよ」 「やったぁ。どこでご飯食べますぅ?」 私の向かい側の席に座り、お母さんが作ってくれたお弁当を広げ始めた渚ちゃんとの会話に、食べる手を止めた中川が「あのさぁ」と口を挟んだ。 「何?中川も一緒に行く?」 「行かないし、あんたに言ってない」 「え?私ですか?中川さんが業務以外で話しかけてくるなんて珍しいですねぇ」 「白井さんって友達いないの?」 中川は、思わずつられて微笑みそうになる渚ちゃんのとびきりの笑顔にビクともせず、痛烈な一言を浴びせた。
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