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「さっき何であんな言い方したのよ」
「何の事?」
「忘れてんじゃないよ。昼休憩の時の事。別に渚ちゃんと仲良くしろとまでは言わないけど、喧嘩売るような事しないでよ。らしくないし、働きにくくなるの自分でしょ」
「はっ。私はあんたの為に言ったのに。後々困っても助けてあげないからね」
「何それ……いらっしゃいませ、お待ちしておりました」
澄ました顔で受付カウンターに立つ中川の隣にいき、ヒソヒソ話しをしている途中で予約のお客様が来館した。
このモヤモヤを抱えたまま、ご案内を始めなければいけないのは嫌だけど仕方無い。
私が勤めている住宅設備のショールームにやって来るお客様は大抵、新しく家を建てる方。
膨らむ一方の夢と、お金という現実の間で揺れ動き、夫婦の意見が対立するのなんて良くある話しだ。幸せな揉め事に思えるけれど、時には聞いていられない所までヒートアップする事もある。
だから、何を聞いても何が起きてもフラットな気持ちでいられるように日々心がけているのに、今日はダメだ。
どんな我儘を言われたって笑顔は崩さない、せめてそれだけは守るようにしないと。受付表の記入を終えたお客様に笑顔を作り、グッとお腹に力を込めてからカウンターを出た。
私はここでの仕事が好きだ。
「幸せの形作りのお手伝い」だなんてベタな事は言いたくないけど、実際、喜ばれたり感謝されれば普通に嬉しいし、やりがいも感じる。
でも、やりたかった仕事かと聞かれたら全然。考えもしなかった業種だ。
私がこの職場を選んだ理由は、休日。その一点だけ。
多くの企業が週末休みな世の中で、プライベートを充実させる為には土日休みを選ぶ人がほとんどだと思う。私だって、友達と予定を合わせるにはその方が良い。
でも、どうしてもダメ。水曜日はダメだ。私のイメージを守る為にも、絶対に水曜日だけは家にいなきゃいけない。
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