イメージ論

4/8
38人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
「葵さんって転職組ですよねぇ?前は何をしていたんですかぁ?」 一方的に自分の恋バナをペラペラ喋る渚ちゃんに「口、止まらないな。どうなってんだ?」って呆れながら適当に相槌を打っていた最中に、話の流れを完全無視した質問が飛んできて、食後のアイスコーヒーを吹き出しそうになる位無駄に動揺してしまった。 「え?あぁ……ま……前の仕事ね。不動産屋だよ。二年ちょっと働いてたかな」 「へぇ~。何で辞めたんですか?今の仕事がしたくてですか?やっぱり部屋紹介するよりも、キッチンとかお風呂を紹介する方が高まりますよね、わかります。私も大きくてキレイなショールームで働くの夢だったんで」 私に口を挟む隙を与えないまま、自分の話しにすり替える渚ちゃんの技術に思わず感心した。 流れるように繰り出された話しの内容は、子供の頃、ご両親とショールームを訪れてから働きたいと憧れていたっていうありきたりなモノだったけれど、夢を叶えたという自信もあるのか語る熱量が違う。 今の渚ちゃんはクリーム色とは程遠い、情熱漲る赤色に見える。 毒々しいとは思わないにしても、中川の方が人を見る目があるんだろうなとボンヤリ思った。 「あれ?葵さん。私、何かマズイ事聞いちゃいました?」 自分が原因で私が喋れないと気づいていない、いつもの無邪気な顔で渚ちゃんが笑う。そんな事ないよと答えながら、うまく笑えているか自信が無かった。 「ううん。私は渚ちゃんみたいにこの仕事がどうしてもやりたかったわけじゃないから、なんか申し訳なくなって。あ、勿論、今は大好きなんだけどね」 一瞬険しい顔を見せた渚ちゃんに、何故か慌てて弁解する。 「じゃあ何でこの仕事選んだんですかぁ?前の会社で嫌な事でもあったんですかぁ?」 「前の会社も仕事も嫌じゃなかったよ。転職したのはお休みが変わっちゃったからなの。入社した時は火水休みだったんだけど、火金休みに変わっちゃって……そんな理由で思うだろうけど」 「うーん。まっ、理由は自由ですけどぉ、よく週末休みの所にしなかったですねぇ。あ……そっか。葵さん、コレ聞いちゃっても良いですかねぇ」 渚ちゃんが何に対してウフフと笑っているのかまるで検討がつかない。 「何?聞かれて困るような事無いと思うけど……」 「前にたまたま小耳に挟んだんですけど、葵さん、水曜休みの彼氏にベタ惚れで、水曜は絶対に彼氏さんの為に開けてるって。やっぱそうなんですかぁ?どんな人なんですかぁ?」 前のめりな渚ちゃんの質問にしどろもどろで答えながら、早く映画の時間よ来い!と店内のお洒落な壁掛け時計の針に念を送った。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!