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「だーから言ったんだよ。他の子達はツッコんで聞いてこれないタイプだから良かったけど、あの子は明らかに違うじゃん。グイグイ聞かれて困った疲れたって言われても知らないよ」
話している途中から露骨に面倒くさそうな顔をしていた中川に、それを隠さない冷たい口調で言われ、映画どうだったのか聞いてきたのは自分なのにと少しムッとした。
「そんな言い方しないでよ。聞かれたから話したのに」
「私が聞いたのは映画の内容で、あんたとあの子の会話じゃないの。わざわざ仕事帰りにジックリ聞かせてくれなんて頼んだ覚えないんですけど」
それに関しては何も言い返せない。
早く家に帰りたがる中川を駅前の居酒屋に無理矢理引きずり込んだのは、間違いなく私だ。
「それはゴメンって」
「まぁ、いいけどさ。それで、どんな設定にしたのよ。あんたがベタ惚れしている水曜休みの架空の彼氏は?」
「架空」と言う単語を嫌がらせのように大きい声で言う中川に向かって、人差し指を口元にあててシーッと言ったけれど、制止できるどころか逆に面白がらせてしまった。
「何よ~。架空は架空でしょ。いるなら紹介してみなさいよ」
「そうだけど声デカいって。誰かに聞かれたらどうすんのよ」
「そんなの知ったこっちゃないわ。で、どう説明したのよ」
話したらまた何か言われるのは目に見えている。
フゥーと大きく息を吐いて覚悟を決めた。
「私がお付き合いしているのは二歳年上のお医者さんです。お父様が個人病院の院長で、彼もそこで働いています。病院のお休みが水曜と日曜です。休日でもやらなければならない事が沢山ある人です。水曜の方が比較的時間を取りやすいので私が休みを合わせています」
途中でツッコまれないように、一気に口を動かした。
「はぁ?何、そのAI口調」
「正確に伝えようと思って。勿論、渚ちゃんに話した時はもっと感情込めて話したよ」
「それであの子、納得したの?もっとツッコまれそうだけど」
「まぁ、色々聞かれたわね。何科のお医者さんなんですかぁ?どこにあるなんて病院なんですかぁ?どこで知り合ったんですかぁ?とか色々」
「まさかそこも設定してあったの?」
「ある程度はね。行く用事があるような病院だとマズイから、渚ちゃんに縁が無さそうな小児科にしておいた。病院名とかはあんまり言わないようにしてるって濁したけど大丈夫だったよ。前は不動産屋で働いていたって話した後だったから、そこの元同僚に紹介されたってことにした」
中川は何も言わずジョッキに半分残っていたビールを一気に飲み干すと、ハァッと溜息をつき、私に哀れみの目を向けた。
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