イメージ論

7/8

38人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
私は水曜日が怖い。 水曜日に出掛けると嫌な事が起きる。 偶然の積み重ねだって自分でもわかっている。でも、そのイメージが呪いのように私を襲ってきて、打ち消すことができない。 怖がった所で週に一度どうしてもやってきてしまうから、上手く折り合いをつけるしかない。だから毎週水曜日は家に閉じこもっている。 昔は、平日の中で水曜日が一番好きだった。 水曜日は何の習い事も無くて、友達と遊ぶのも家でゴロゴロするのも自由だった。 小学四年生の時、飼っていたハムスターが死んでいるのを見つけたのは、そんな用事のない水曜日だった。 中学三年生、バスケ部最後の公式試合があったのもそうだ。 一年生の時から同級生の誰よりも背が高かったのに、最後までレギュラーにはなれなかった。出番のないまま試合に負けて、泣くこともできなかった。無言で帰り支度をする中聞こえた他校の子達の「今日、何曜日だっけ?」「水曜日だよ」の会話だけが妙に頭に刻まれた。 高校二年生の時、初めて付き合った彼にフラれた。 私の初めてを全て奪う大きなものだったのに、水曜日の塾に行く前にサクッと終わりを告げられて、どうにもできなかった。 第一志望の大学の受験日も、目の前が真っ白になった合格発表の日も水曜日だった。 この頃には、水曜日に嫌な事が起きると漠然と思うようになっていたけれど、幸い他の大学には受かったし、そこでの生活は楽しかったから、まだ偶然だと思えていた。 大学時代の彼に告白の返事をして付き合い始めたのは水曜日だったし、別れを切り出したのは日曜日だった。 無意識に水曜日に良いイメージをつけようとして、それが上手くいっていたんだと思う。 勿論、自然と良い事だってあった。 苦戦すると覚悟して臨んだ就職活動で、比較的早いうちに採用を貰えたのは水曜日だった。喜んだ母親がカレンダーに花丸をつけたのでよく覚えている。 入社したのは文房具を扱うそこそこ名の知れた会社で、覚える事がありすぎて必死だったけれど毎日が充実していて、水曜だけを意識する事はなかった。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加