龍鳴寺般若堂

4/4
前へ
/4ページ
次へ
「先先代は滅多におつとめもせず、お堂でのんびり般若湯を飲んでは、戯れに龍の絵なんぞ描いておった。ある時、村を二分する大きな争いがあって、百姓らは寺にやって参り、(さば)きを求めた。先先代は、双方を御堂に集めると、般若湯を皆に振舞って、言い争いをただ聞いておった。もちろん、(おのれ)も般若湯を飲みながら・・・」 「般若湯とは、気を鎮める薬でございますか?」  和尚さん、小僧の耳元にひそひそ声で、 「・・・酒だ」 「やっぱり、酒ではないですか!」  和尚は、笑って続けた。 「百姓たち、坊さんの前で話している間にだんだん頭が冷えて、争いがおさまっていった。酔いが回ると、(しま)いには肩を叩いて笑いあったそうな。そして夜も更けた頃、先先代が『そろそろ手打ちにいたしますかな』と、パンッと手を叩いた。すると、天井の龍が喜んで鳴いた。百姓どもは、龍神さまに平伏(ひれふ)して、二度と争わなくなったとな」 「呑兵衛の和尚さんが、(から)の酒甕を天井に隠しておっただけではないのですか?」  和尚が笑うと、龍がうぉんと鳴いた。  名にしおはば    打てば響けよ        龍鳴寺 〜終わり〜 69332fe5-acd8-4653-b7de-049e177c17b9龍図 たやす   小僧「後ろ足が逆向きですが・・・」   龍 「うぉん!」   和尚「ははは、よいではないか」
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加