14人が本棚に入れています
本棚に追加
「先先代は滅多におつとめもせず、お堂でのんびり般若湯を飲んでは、戯れに龍の絵なんぞ描いておった。ある時、村を二分する大きな争いがあって、百姓らは寺にやって参り、裁きを求めた。先先代は、双方を御堂に集めると、般若湯を皆に振舞って、言い争いをただ聞いておった。もちろん、己も般若湯を飲みながら・・・」
「般若湯とは、気を鎮める薬でございますか?」
和尚さん、小僧の耳元にひそひそ声で、
「・・・酒だ」
「やっぱり、酒ではないですか!」
和尚は、笑って続けた。
「百姓たち、坊さんの前で話している間にだんだん頭が冷えて、争いがおさまっていった。酔いが回ると、終いには肩を叩いて笑いあったそうな。そして夜も更けた頃、先先代が『そろそろ手打ちにいたしますかな』と、パンッと手を叩いた。すると、天井の龍が喜んで鳴いた。百姓どもは、龍神さまに平伏して、二度と争わなくなったとな」
「呑兵衛の和尚さんが、空の酒甕を天井に隠しておっただけではないのですか?」
和尚が笑うと、龍がうぉんと鳴いた。
名にしおはば
打てば響けよ
龍鳴寺
〜終わり〜
龍図 たやす
小僧「後ろ足が逆向きですが・・・」
龍 「うぉん!」
和尚「ははは、よいではないか」
最初のコメントを投稿しよう!