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華の大江戸を東にずうっと下って帝釈天さんのさらに外れ、田んぼばかりのいなか風情に、ポツンと淋しく禅寺がありまして、名は龍鳴寺、その敷地の角に般若堂という小さなお堂がございました。四角いお堂の鏡天井(注 枠を設けず板を鏡のように平らに敷き詰めた天井)には、天を駆ける龍の水墨画が描いてあって、その真下でパンと手を叩くと、龍が鳴くというので、ありがたく参拝に訪れる人も少なからず。
ところが先の大嵐、貧乏寺なんぞ一溜まりもない。屋根は飛ぶ、雨戸も飛ぶ、安普請の般若堂もたいそうな雨漏りでございました。雨が上がって、板床の雑巾がけが終わった小僧が、何の気なしにパンパンと手を叩いたところ、
「はて?」
小僧はもう一度パンと手を叩くと、慌てて和尚さんを呼びに行きました。和尚がやってきて、龍の天井の下で手を叩きましても、
「鳴かぬな・・・」
和尚は腕を組んで立ち尽くしたのでございます。
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