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第一章
独身のこじらせ女子の真帆が、彼氏をレンタルしようと思ったのが、今から三時間前の夕刻。
どんなに悔やんでも、最愛の人は戻らない。
午後七時。待ち合わせ場所にしている駅前の噴水広場へと向かうと、レンタル彼氏が待っていた。
「今夜はよろしくお願いします。真帆と申します。絆ネットワークの拾太郎さんですね?」
サラサラの髪に透明感のある白い肌。眼鏡をかけた二十歳前後の感じのいい青年だが、真帆の相手としては少し若過ぎる。
(別に、レンタル彼氏といっても、食事をするだけなんだけどね……)
二人でイタリアンのレストランに向かうと、壁際の予約席に着席した。
ビルの三階にある店内は広くてリッチな雰囲気が漂っている。
間接照明の仄かな灯りの中、飲み物はどうされますかと店員に問われた彼は、値段を気にするようにメニューを読み返してから、ミネラルウォーターと短く答えた。
いきなり、このような超高級レストランに連れてこられて困っているようにも見える。それを気遣うようにして真帆は微笑む。
「どうか、遠慮せず、好きな飲み物を注文して下さい。ここの赤ワイン、とても美味しいんですよ。二十歳を越えてますよね?」
「いえ、まだ、ギリキリ十九歳です」
拾太郎。O型。おひつじ座。身長百七十九センチ。特技、どこでも寝れること。食べ物の好き嫌いがないことが自慢。好きな映画、『大いなる遺産』『フォレストガンプ』『きみに読む物語』
ユーザーからの評価は星四つ。熱心なリピーターがいる。しゅうたろう。真帆が飼っていた犬と同じ名前だったので、この人にしたのだが……。
改めて観察したところ、全身ユニクロっぽいラフな服装だった。足元は白いスニーカー。アクセサリーなどは何もつけていない。
ちなみに、今夜の真帆は、眼鏡を外してコンタクトを装着しており、知的な雰囲気の女性に似合うジャケットの下にワンピースを身につけている。
すっきりとした涼やかな目許は清らかで、スラリと背が高くて間違いなく美人の部類に入るけれども、これまで、あまりモテた事がなくて婚約者以外の人とデートした事がない。
真帆は、自分がどう思われているのかしらと悩みながらも、打ち明けていく。
「あたし、レンタル彼氏を雇ったのは初めてなんです」
すると、彼は静かに真帆の目を見つめながら言った。
「ひとつ訂正しておきますが、僕はレンタル彼氏ではありませんよ。それは姉妹サイトです。僕は、身体が不自由な方の買い物の代行や、老人の方に本を読んだりしています」
「そうなの? それじゃ、こういうふうに食事をするのは駄目なのかな?」
てっきり、レンタル彼氏だと思っており、契約条項に目を通していなかった。
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